2025 09,11 08:47 |
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2020 08,12 16:04 |
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結成当初、血気盛んで個性の強い選手がこれでもかと集まっていた東京聖オゲレツ学園アルティメットゑロス倶楽部VegeGriffonsは、試合中にも関わらずチーム内で怒鳴り合ったり、時には掴み合いになったりと、チーム内の勝手な乱闘騒ぎで試合を荒らすことがもはや伝統芸能としてアルティ界に広く認知されていた。
その伝統芸能はある種の見世物としてギャラリーを惹きつけたが、当事者である対戦相手には漏れなく不快感を与えており、時にはそんな先入観からまるで憎しみのような視線を向けられ、自業自得であるが暴言を吐かれたことも少なくない。
当然のことながら、そんな負の印象が2006年の結成からおよそ10年に渡って新入部員の加入を遠ざけた。数年に一度加入してきたメンバーは、揃いに揃って物好きな奇人ばかりであり、情緒不安定な初期メンバーと途中加入の奇人という構成で、現在のVegeGriffonsは形作られている。
令和のVegeGriffonsといえば「ヘーセーベジグリフォンズ※」の印象で塗り替えられてしまっていることかと思うが、ヘーベジのメンバーはそんなVegeGriffonsの真っ黒な過去を全く知らないから安易な気持ちでこの名前引き継いでしまったことに、疑いの余地はない。U24代表経験者を多く抱える将来有望な選手たちがヘーセーベジグリフォンズを立ち上げ、更には自分たちのことをベジガールと呼ぶようなったことについて、アルティ界の過去を知る有識者たちはショックのあまり全員脱糞したという話は有名な話である。
※現、東京聖オゲレツ学園アルティメットゑロス倶楽部VegeGriffonsマーベリックス
さて今でこそVegeGriffonsは心身ともに丸くなったおじさんたちの道楽アルティメットの様相を呈し、大会に出場しても「紳士の心でディスクと勝利を譲る」マインドで戦いに臨んでいるため、以前のように試合が荒れることが無い一方で、ここ数年全く勝利の記憶がないのであるが、尖ってたあの頃はそれはそれは勝利に飢えていた。
早稲田が生んだ奇才・ガーソーの発案した「チーム名で学園を名乗ることによる、VegeGriffonsの学生チーム化」作戦。 ※1
ガーソーが発案し、実戦投入直前でお蔵入りになった戦術「クロス」。 ※2
ガーソーが発案した、「Buzz以外の全てのチームが連合すれば、自動的に全日本選手権の決勝戦に行ける」理論。 ※3
※1 ある時期からルールに学生(大学)の定義が追加され、断念。
※2 全員がお揃いの帽子をかぶり、お揃いのアイテムを身につけた状態で、7人が限界まで密着した状態でラインナップ。スローオフ後一斉に散らばることで相手のミスマッチを誘うという戦術。ほぼ実現という段階までいったところで、まさかの早稲田の後輩・志村による「俺は帽子が似合わないから、ヤダ」という驚異的なわがままが発動し、断念。
※3 手始めにθに話を持ち掛けたが心無く断られ、断念。
これら奇想天外な発想も、すべては勝利に飢えていたからこそなのである。
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と、2020年8月の夜になっても気温30℃を超えるようなとある熱帯夜に、ふと記憶の扉が一つ開いた。
およそ10年くらい前の、茨城県ひたちなか市での全日本選手権予選だったか。
あの日も既に9月に入っていたものの、今と同じように立っているだけでもふらつくような暑い暑い日だった。
勝利に飢えた東京聖オゲレツ学園アルティメットゑロス倶楽部VegeGriffonsは、名門ボンバーズとの対戦を控えていた。
強豪との対戦に武者震いを抑えられないゑロティック戦士たち15人あまりは、目前に迫る試合に向け、直前のミーティングで激論を交わしていた。
いったいどのように試合を運べば強豪相手に勝利を収めることができるのか。
議論は白熱したものの、最終的にはその場の全員が納得する解が導き出され、円満にミーティングは閉じられた。
ボンバーズ戦において、我々が徹底すること。
それは、
『ボンバーズがスコアしたら、逆サイドのライン際で待機するOセットは1秒以内にラインナップして、準備完了の合図のため全員で手を挙げること』
背景情報の少ない読者諸君は、いまいちこれが何を指すか飲み込めていないことであろう。 しかし以下の2点の情報が補足されることによって、これがいかに恐ろしい作戦であるか、ご理解いただけるのではないか。
<補足情報1> ボンバーズの人数は、9人
<補足情報2> 現在のルールでは、試合での得点後のスローオフまでの流れについて、以下のように定められている。 ----- A5.4.2.1. ディフェンス側のチームは、得点後、もしくは前後半開始時から【75秒後】、もしくはオフェンス側のチームの合図から【15秒後】のどちらか遅い方までに、スローオフを投げなければならない。 -----
しかし当時のルールは、こうであった。 ----- A5.4.2.1 ディフェンス側のチームは、ポイント開始地点から75秒以内、もしくは、オフェンス側のチームの合図から15秒以内にスローオフを投げなければならない。 -----
この2つの要素が組み合わさったとき、やりようによってはおぞましい事態が発生することにお気付きであろうか。
新ルールであれば得点からスローオフまでに最低でも75秒が確保されているのに対し、旧ルールにおいてはスローオフはオフェンス側主導であり、オフェンスの準備が整い次第スローオフまで15秒のカウントダウンが始まるのである。
つまり、先に掲げた俺たちゑロス倶楽部の作戦が徹底して実行された場合、ボンバーズが得点した瞬間に逆サイドでゑロティカセブンが手を挙げているという事態が発生するので、ボンバーズはほぼ得点したメンバーのまま、給水すらまともに行うことができないうちに、15秒後にはスローオフを投げなければならないのである!!!
何たる美しきSOTG!!!!
何たる尊いアルティメット愛!!!!!
そして、遂に試合が始まった。
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ゑロス倶楽部の執る戦術は、徹底的にマンツーマン!とにかく相手を走らせろ!とばかりにリアルガチノーガードの殴り合いアルティメットが展開された!!
それでもさすが強豪ボンバーズ、いかにオフェンスキープ後呼吸を整える間もなくディフェンスが始まろうとも、日頃の鍛錬と徹底したペース配分が功を奏し、オフェンスの際にはしっかり走り抜きキープしてくる!
予想外のキープ合戦が続くなか、痺れを切らしたゑロス戦士の怒号がとぶ!!!!
ゑロス戦士「おいおめぇらラインナップに5秒もかけてるんじゃねぇよ!!!!!」
ゑロス戦士「ちょっとタイムキーパー!!!もうベジのオフェンス、ラインナップの準備整ってますよ!!!!!」
嗚呼、アルティメット、とは。
嗚呼、スポーツ、とは。
そしてVegeGriffonsの徹底した高速ラインナップ攻撃を耐え凌ぎ、なんとボンバーズはイーブンのままハーフタイムを迎える。
しかしまだまだ暑い9月の、執拗なまでにギラギラと照り付ける太陽のなか、実力とは関係のない要素を根拠とした不思議な自信が、ゑロス戦士たちを後押ししていた。
そして後半も後半、遂にその時がやってきた。
ボンバーズの選手たちの、最後の一人までまったく足が動かなくなった。
あまりの疲労、そして脱水のためガードすらままならなくなったボンバーズの勇者たちに、残忍な笑みを浮かべたまま容赦ないパンチを打ち込み続けるゑロス戦士たち。
あまりにも残酷な光景であった。
最終的に、4アップくらいでVegeGriffonsが勝利を収めた。
しかしわしの脳裏に焼き付いているのは、勝利して歓喜に沸くチームメイトの姿ではなく、試合前にはあんなにも元気溌溂とした若者たちであったのに、この試合を通じて五臓六腑まで完全に干からびてしまい、目にはもはや生命の灯を宿していない、まるでミイラと化してしまったボンバーズの選手たちによる乾いた笑いであった。
アルティメットに限らず、歴史上の戦争において、このような戦い方を世はこう表現する。
兵糧攻め
恐らくJFDA関係者がVegeGriffonsのボンバーズへの不自然な勝利に気付き、調査が行われたのであろう。
それから長くない時間のうちに、適切な方向にルール改正が行われたのでしたとさ。
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